東京地方裁判所 平成6年(ワ)13380号 判決 1995年9月20日
原告
株式会社東急レクリエーション
右代表者代表取締役
佐藤進
右訴訟代理人弁護士
小山勲
同
林原菜穂子
被告
株式会社銀座セキネ
右代表者代表取締役
関根明
右訴訟代理人弁護士
西迪雄
同
富田美栄子
主文
一 被告は原告に対し、金二六〇〇万円を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用のうち、原告に生じた費用の三分の一を被告の負担とし、その余は各自の負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 原告の請求
被告は原告に対し、金六二八八万円を支払え。
第二 事案の概要
一 原告の請求の原因
1 原告は被告との間で、平成元年八月三〇日、賃貸借期間平成元年八月一日から一二年間、賃料月額五五〇万円(消費税別途)、敷金七二〇〇万円との約定で、被告の所有する別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)につき賃貸借契約を締結した(以下、この契約を「本件賃貸借契約」という。)。この契約は、転貸を目的とするものであった。
その後、原告は被告に対し、平成四年八月二五日、敷金六六〇万円を追加して差し入れ、敷金の総額は七八六〇万円になり、また、賃料月額も同年八月分以降、六〇五万円に増額された。
2 原告は、平成元年八月、ダイヤモンドリース株式会社に対し、本件建物を、賃貸借期間同月一日から平成四年七月三一日まで、賃料月額六〇〇万円(消費税別途)、敷金七二〇〇万円の約定で転貸し、平成四年八月一日に契約を更新した。ダイヤモンドリース株式会社はフットワーク株式会社に対し、本件建物を再転貸した。契約条項の詳細は不明である。
3 ところで、本件賃貸借契約には、解約及び敷金の返還について、次のような特約があった。
(一) 原告は、正当な事由ある場合のみ、六か月前までの書面による通知をもって本件賃貸借契約を解約することができる(第四条第二項)。
(二) 賃貸借期間満了以前に原告の責に帰すべき事由により賃貸借契約が中途終了した場合は、賃貸借契約の残存期間中、原告は敷金を被告に預け入れておくものとする。ただし、その残存期間中に被告が本件建物を第三者に賃貸し、その第三者から被告に保証金又は敷金が差し入れられたときは、その限度で原告に敷金を返還する(第六条第三項)。
(三) 賃貸借期間満了以前に被告の責に帰すべき事由により賃貸借契約が中途終了した場合は、被告は期限の利益を失い、敷金からその二〇パーセントを償却した残額を直ちに原告に返還する(第六条第四項)。
4 原告は、平成五年七月一五日、被告に対し、本件賃貸借契約の解約の申入れをした。
ところが、被告がこれに対して明確な応答をしないまま推移している間に、被告はフットワーク株式会社との間で本件建物の賃貸借契約を締結し、その結果、本件建物において原告が使用収益をすることが不可能となり、原告と被告の間の本件賃貸借契約は当然に終了することとなった。
なお、被告は本件建物をフットワーク株式会社に賃貸した際に、敷金として二六〇〇万円を受け取っている。
5 右契約の終了は、被告の責に基づくものである。
よって、原告は被告に対し、前記3の(三)の約定に基づき、敷金七八六〇万円から二〇パーセントを償却した残金六二八八万円の返還を求める。
6 仮に本件賃貸借契約が当然に終了していないとしても、原告がした前記4の解約申入れには、次のとおり正当な事由があったから、本件賃貸借契約は、平成六年一月一五日の経過により終了したものである。
すなわち、本件建物の転借人であるフットワーク株式会社は、平成五年七月ころ、ダイヤモンドリース株式会社を通じて原告に対し、賃料の値下げを申し入れ、それができないのなら本件建物を明け渡す旨申し入れてきた。そこで、原告とフットワーク株式会社とが話し合った結果、同会社の申出内容では逆賃料となる(転貸賃料が原告からの賃料より低額となる)ため、原告は被告に対し、再三にわたり賃料の減額の交渉を行った。その際、原告は自己の利益をゼロにするという申出までしている。これに対して、被告は、一二年間の契約期間内は賃料の減額には一切応じられないと主張した。そこで、原告はやむなく本件賃貸借契約の解約の申入れをしたものである。
右のとおり、原告の解約申入れによる本件賃貸借契約の終了は、被告の責に帰すべき事由に基づくものであるから、被告は原告に対し、前記3の(三)の約定に基づき、二〇パーセント償却後の敷金残金六二八八万円を原告に返還すべき義務を負う。
7 仮に本件について前記3の(二)の約定が適用される外形的事実関係があったとしても、右約定は被告に一方的に有利なものであり、被告の暴利行為を是認するもので、公序良俗に反し、無効である。原告も本件賃貸借契約締結当時右約定の問題点に気付いていたが、そのころはいわゆるバブル経済の真っ直中であり、数多くの賃借希望者がいる中、原告が被告との賃貸借契約締結にこぎつけるためには、この条件を呑まざるをえなかったのである。
したがって、被告は原告に対し、二〇パーセント償却後の敷金残金を直ちに返還すべきである。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は知らない。
3 同3の事実は認める。
4 同4のうち、原告がその主張の日に本件賃貸借契約の解約の申入れをしたこと、被告が本件建物を平成六年一月一六日以降フットワーク株式会社に賃貸していること、その敷金として二六〇〇万円を受け取っていることは認めるが、その余の事実は否認する。
5 同5の事実は否認する。
6 同6の事実は否認する。本件賃貸借契約は、原告が本件建物を転貸しうることを前提とし、転借人の有無にかかわらず、一二年間の約定期間内は契約関係を維持し、その間の被告の賃料収入を保証するものであり、原告が主張する事由が解約申入れの正当な事由に該当しないことは明らかである。
7 同7の事実は否認する。
三 抗弁
1 前記二の6に述べたとおり、本件賃貸借契約は、原告が本件建物を転貸しうることを前提とし、転借人の有無にかかわらず、一二年間の約定期間内は契約関係を維持し、その間の被告の賃料収入を保証するものである。ところが、原告は、フットワーク株式会社から賃料の減額請求ないし本件建物の明渡しの申入れを受けるや、正当な事由がないのに、直ちに本件賃貸借契約の解約通知をしたものであり、原告の右行為は債務不履行を構成する。
2 被告は原告の右債務不履行により、平成七年六月一五日現在、原告の支払うべき賃料と現賃借人であるフットワーク株式会社の支払うべき賃料との差額合計三〇六〇万円(平成六年一月一六日以降、1か月一八〇万円の割合による金員)の損害を被っている。
3 被告は原告に対し、平成七年七月一三日の口頭弁論期日において、右損害賠償請求権をもって、原告の本訴請求債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実は否認する。
2 同2の事実は知らない。
五 争点
1 本件賃貸借契約上の原告に使用収益させる義務が被告のフットワーク株式会社への本件建物の賃貸によって履行不能となったか。
2 原告の本件賃貸借契約の解約申入れに正当な事由があるといえるか。
3 本件賃貸借契約の終了が被告の責に帰すべき事由に基づくものといえるか。
4 敷金据え置きの約定が暴利行為として公序良俗に反するといえるか。
5 本件賃貸借契約の履行につき、原告に債務不履行があったといえるか。いえるとすれば、それによる損害の額はいくらか。
第三 争点に対する判断
一 本件賃貸借契約上の原告に使用収益させる義務が被告のフットワーク株式会社への本件建物の賃貸によって履行不能となったか。
原告が平成五年七月一五日本件賃貸借契約の解約の申入れをしたことは当事者間に争いがなく、右解約申入れが原告主張のとおり正当な事由に基づくものであるとすれば、平成六年一月一五日の経過により本件賃貸借契約が終了する約定であることも当事者間に争いがない。そして、証人松本久男の証言によれば、被告とフットワーク株式会社との間の本件建物賃貸借契約についての賃貸借期間の始期は、同年一月一六日であったものと認められる。
そうだとすれば、原告が右解約の申入れに正当な事由があると主張するものである限り、被告とフットワーク株式会社との間の本件建物の賃貸借契約の締結によって本件賃貸借契約上の原告に使用収益させる義務が履行不能になることはありえないものというべきである。
したがって、本件賃貸借契約上の原告に使用収益させる義務が被告のフットワーク株式会社への本件建物の賃貸によって履行不能となったとする原告の主張は理由がない。
二 原告の本件賃貸借契約の解約申入れに正当な事由があるといえるか。
1 本件賃貸借契約の契約書(乙第一号証)によれば、原告は、正当な事由ある場合のみ、六か月前までの書面による通知をもって本件賃貸借契約を解約することができると定められている(第四条第二項)が、正当な事由の意味については何ら定めがなく、正当な事由に関する例示もない。
ところで、原告が正当な事由に基づいて本件賃貸借契約の解約の申入れをしたときは、右契約条項により、六か月の経過により本件賃貸借契約は解約されるが、本件賃貸借契約に特徴的なのは、これによって賃貸借に伴う債権債務の関係が直ちに清算されるのではないことである。すなわち、右正当な事由に加えて被告の責に帰すべき事由があるときは、敷金から二〇パーセントを償却した残金が原告に返還され、賃貸借に伴う債権債務が清算される(第六条第四項)が、被告の責に帰すべき事由があるとはいえないときは、敷金返還についての定めがなく、原告の責に帰すべき事由に基づく賃貸借契約の中途終了に関する第六条第三項の定めを拡張解釈して、期間満了まで敷金を据え置いた後、第六条第二項の定めにより、二〇パーセントを償却の上、残金を原告に返還するものと解さざるをえない。
本件賃貸借契約における敷金の額が七二〇〇万円(その後、七八六〇万円に増額)であることを考えると、右のような敷金据え置きの条項を有することにより、本件賃貸借契約は、原告による中途解約について、原告に大きな不利益を課するものといえる。
もっとも、被告がその後本件建物を第三者に賃貸し、その者から保証金又は敷金を受領したときは、その金額の限度で、被告は原告に対し、敷金の返還義務を負うこととされている(第六条第三項ただし書)。したがって、事務所用建物の賃借の需要が大きいときは、解約後遅くない時期に従前の敷金額を上回る保証金又は敷金が差し入れられる可能性が大きいので、中途解約による原告の不利益はさほど大きなものとはならないが、昨今のように不動産取引が沈滞し、事務所の賃借の需要が小さくなると、原告の中途解約による不利益は極めて大きくなる。本件紛争発生の根源的な原因はここにあるといえる。
2 原告は、本件賃貸借契約の第六条第二項が被告に一方的に有利なものであり、被告の暴利行為を是認するもので、公序良俗に反し、無効である旨主張する。しかし、業として賃貸借契約を締結する会社である原告が、右条項を承認してでも本件賃貸借契約を締結して営業上の利益を上げようと目論んでこれを締結した以上、それを被告の暴利行為であるとか公序良俗に反するとかの理由により無効であると主張することは、到底許されるものではない。
確かに、昨今のように不動産取引が沈滞し、事務所用建物の賃借の需要が小さくなると、本件賃貸借契約の第六条第二項の定めによる原告の不利益は極めて大きなものとなる。そして、本件賃貸借契約締結当時には、いわゆるバブル経済により、その不利益が契約当事者双方に認識されていなかったものといえる。しかし、不動産取引を業とする者であれば、いわゆるバブル経済が常識的な視点から見て異常な事態であることは認識しえたはずであり、にもかかわらず、これによる利益に預かろうとして不動産取引に加わった以上、その後バブル経済が崩壊して不利益が顕在化したとしても、そのことをもって、当該契約条項が一方当事者の暴利行為であるとか、公序良俗に反するとかの主張をすることは許されないものというべきである。
3 このような契約条項の解釈を前提として、原告の本件賃貸借契約の解約申入れに正当な事由があるかどうかについて検討するのに、証人樫村喜一郎及び同松本久男の各証言を総合すれば、次の事実を認めることができる。
(一) 本件賃貸借契約は転貸を目的とするものであり、原告は本件建物を平成元年八月一日ダイヤモンドリース株式会社に転貸し、同会社はこれをフットワーク株式会社に再転貸したものである。
(二) フットワーク株式会社から原告に対し、平成五年六月下旬、本件建物の再転借契約を解約する旨の意向が示され、同年七月一日、ダイヤモンドリースから原告に対し、正式に文書で本件建物の転貸借契約の解約の申入れがあった。
しかし、フットワーク株式会社は、同月一〇日ころ、原告に対し、現行賃料の三分の一ならば支払えるとの意向を示したので、原告は同会社との間で、さらに高い額の賃料を支払う可能性がないかどうかの打診をする一方、被告に対し、本件賃貸借契約の賃料の減額の要請をした。すなわち、原告は被告に対し、貸しビル市場の不況の実情を説明し、次のテナントを探すにしても賃料は大幅に減額しなければならず、また、見つかるまでに時間がかかる状況にあるので、賃料を減額してでも現在のテナントを継続した方が得策であるとして、原告ないしダイヤモンドリース株式会社がフットワーク株式会社の再転借賃料の減額請求に応じられるように、本件賃貸借契約の賃料を減額してくれるよう要請した。
ところが、被告は、いったん取り決められた本件賃貸借契約の賃料の減額には応じられないとの固い意向を有しており、原告の右説得に理解を示さなかったため、原告の被告に対する交渉は進展する様子がなかった。
(三) そこで、原告は、平成五年七月一五日、被告に対し、本件賃貸借契約の解約の申入れをした。しかし、その一方、原告は、本件賃貸借契約を原告の一方的意思表示により終了させることによる紛議を回避する目的等から、被告との間で本件賃貸借契約を継続する方向での解決も模索し、フットワーク株式会社と協議を継続した結果、同月二〇日ころ、同会社から、賃料が現行賃料の半額以下になるなら継続して賃借してもよい旨の回答を得るに至った。さらに、同月二九日には、同会社から、一か月四二〇万円の賃料を出してもよいとの回答をもらい、これを受けて、原告は被告に対し、自社の利益は一切放棄するので、フットワーク株式会社が支払の意向を示している金額まで本件賃貸借契約の賃料(当時の月額は六〇五万円)を減額してもらいたい旨申し入れた。しかし、被告は、いったん取り決められた本件賃貸借契約の賃料の減額には応じられないとの主張を繰り返した。
4 右認定事実によれば、原告は、本件賃貸借契約締結後の不動産取引の状況の変化により、事務所用建物の賃料相場が大幅に下落し、本件賃貸借契約を継続したのでは大幅な損失が発生する状況となり、損失を減少させるための協議も被告に拒絶されたため、本件賃貸借契約の解約の申入れをしたものであり、右解約の申入れには、契約条項第四条第二項に定める正当な事由があるものというべきである。
5 被告は、本件賃貸借契約が一二年間の約定期間内の被告の賃料収入を保証するものであるから、原告が転貸により損失を被ることとなっても、そのことが解約申入れの正当な事由となるものではないと主張する。
しかし、本件賃貸借契約において、原告が被告に対し、一二年間の約定期間内の被告の賃料収入を当初の賃料月額以上となるよう保証したことを認めるに足りる証拠はないものといわざるをえない。すなわち、本件賃貸借契約の契約書には、その旨の文言はなく、証人樫村喜一郎及び同松本久男の各証言からも、契約締結の際にそのような合意が成立したことを認めることはできない。
もっとも、本件賃貸借契約当時、被告が原告と契約を締結することによって一二年間にわたって安定的な賃料収入が得られると期待したこと及び原告担当者もそのように予測して本件賃貸借契約を締結したことは、証人樫村及び同松本の各証言から窺えるところであり、賃料情勢が若干悪化したという程度で本件賃貸借契約の解約の申入れができるものではないとの認識が契約の両当事者にあったことは事実である。しかし、そのことは、契約条項第六条第三項に表されており、途中解約によって被告の右期待を害さない方策としては、七二〇〇万円以上に上る敷金の契約期間内の凍結及びその二〇パーセントの無条件償却という措置が講じられていたものというべきであり、賃料情勢がどのように変化しても解約の申入れができないこととするまでの合意があったものと認めることはできない。したがって、証人樫村及び同松本の各証言から窺える右事実も、原告の解約申入れに正当な事由があるとする前記認定の妨げとなるものではない。
三 本件賃貸借契約の終了が被告の責に帰すべき事由に基づくものといえるか。
原告は、本件賃貸借契約の終了が被告の責に帰すべき事由に基づくものであると主張する。しかし、前記二の3認定の事実によれば、原告が本件賃貸借契約の解約の申入れをした根源的な原因は、本件賃貸借契約締結後の不動産取引の状況の変化により、事務所用建物の賃料相場が大幅に下落し、本件賃貸借契約を継続したのでは大幅な損失が発生する状況となったことであり、そのような状況の発生による原告の賃料減額の請求を被告が受け入れなかったとしても、それが契約条項第六条第四項にいう被告の責に帰すべき事由に該当するものではない。被告は、既に締結された契約の維持の主張をしたにすぎず、それが当時の事務所用建物の賃料情勢を考慮に入れないものであったとしても、原告は、被告を相手方として、賃料減額の請求訴訟を提起することができたものであり、そのような方策を取ることなく、解約申入れの方法を選んだ原告としては、契約条項第六条第三項に定める敷金据え置きの措置が取られたとしても、それを受け入れざるをえないのである(前記二の1の解釈参照)。本件賃貸借契約の契約条項には、中途解約につき双方当事者の責に帰すべき事由がない場合の規定を欠いており、これは契約条項の不備であると考えられるが、契約条項中に原告の期待に沿わない不備があったとしても、その不備による不利益は、契約当事者である原告が負うべきものである。
したがって、本件賃貸借契約の終了が被告の責に帰すべき事由に基づくものであるとする原告の主張は理由がない。
四 原告が返還請求できる敷金の額
前記二の1に記載した本件賃貸借契約の条項の解釈によれば、原告が現時点において被告に対し返還請求することができる敷金の額は、被告がフットワーク株式会社から受領した敷金の額である二六〇〇万円を限度とするものというべきである。
原告は、敷金の据え置きを規定した契約条項第六条第三項の定めが被告の暴利行為であり、公序良俗に反すると主張するが、右主張の理由がないことは、前記二の2記載のとおりである。
五 本件賃貸借契約の履行につき、原告に債務不履行があったといえるか。
被告は、本件賃貸借契約の履行につき原告に債務不履行があったと主張する。ところで、右主張は、原告による本件賃貸借契約の解約申入れに正当な事由がないことを前提とするものであるが、右前提事実を認めることができないことは、前記二記載のとおりである。
したがって、被告の右主張は理由がないから、被告の相殺の抗弁は、被告の被った損害の額について検討するまでもなく、理由がない。
六 結論
以上のとおりであるから、原告の請求は、被告に対し、敷金のうち既に弁済期にある二六〇〇万円の返還を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、原告の勝訴の程度に応じて訴訟費用の負担を定め、申立てにより原告勝訴の部分に仮執行の宣言を付することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官園尾隆司)
別紙物件目録<省略>